文章中の
傍線(1〜5)の
カタカナを
漢字に直し、
波線(ア〜コ)の
漢字を
ひらがなで記せ。
(20)
2⨯5
1⨯10
A 能面は物真似演技の劇中人物を表現すべきものであるという条件が、その製作者をして勢い活世間の人間の面貌にまず注視を向けしめた。而も仏像の類と違って賢愚雅俗のあらゆる人面の芸術的表現を余儀なくさせた。これは人を救う仏でなくて、仏に救われる煩悩の徒である。これは尊崇措かざる聖者の肖像ではなくして、浮世になみいる妄執に満ちた憐愍すべき餓鬼の相貌である。賢愚おしなべて哀れはかない運命の波に浮沈する盲亀の面貌である。彼岸の仏ボサツでなくて、吾が隣人であり、又自己そのものである。こういう凡人の相貌を芸術化するという稀有な役割を持つ能面が、野卑な悪写実に走らずして、最も高雅な方向に向ったのは、一に当時の洗煉された一般的美意識によると共に、能楽という演技そのものが、その発祥を格式を尚ぶ社寺のうちに持ち、謡曲のうしろには五山のセキガクが厳として控えて居り、禅門書画家の輩出数うるに遑なきほどの社会的雰囲気の中に育ち、わけて厳しい幽玄思想に導かれた事によるのである。(高村光太郎「美の日本的源泉」より)
B「校長先生、左様仰って下すっては、使に来た私共が困ります」と痩せぎすな議員が右から手を擦み乍ら言った。
「御辞退下さる程の御チソウは有りませんのですから」と白髥の議員は左から歎願した。
校長の眼は得意と喜悦とで火のように輝いた。いかにも心中の感情を包みきれないという風で、胸を突き出して見たり、肩を動って見たりして、軈て郡視学の方へ向いて斯う尋ねた。
「どうですな、貴方の御都合は」と言われて、郡視学はオウヨウな微笑みを口元に湛え乍ら、
「折角皆さんが彼様言って下さる。御厚意を無にするのは反って失礼でしょう」
「御尤もです――いや、それではいずれ後刻御目に懸かって、御礼を申し上げるということにしましょう。何卒皆さんへも宜しく仰って下さい」と校長は丁寧にアイサツした。(島崎藤村「破戒」より)